Spratton Gardens 2008年4月27日 訪問
イギリスにはナショナル・ガーデン・スキム(The National Gardens Scheme : NGS)
というチャリティー組織がある。(NGSについては
”2005年の旅 TOPIC 6月18日”の項を参照)
個人のガーデンが、その最も美しい時期に一般公開され、その入場料をチャリティーに回される仕組みだ。
そのディテールを収録した本がイエローブック(The Yellow Book)だ。07年から購入し、幾つかのプライベート・ガーデンを
見せてもらい、その魅力にはまり始めている。(奇しくも、今年の表紙の写真はブルーベルだ。)
問題は公開日の多くが週末に偏っていることだ。従って、私共の旅程ではワンチャンスしかないのだ。この旅では今日しかない。
ストラットフォード・アポン・エイボンのあるワーウィックシャー(Warwickshire)とコトンマナーのあるノーサンプトンシャー
(Northamptonshire)ではこの日のオープン・ガーデンは3件しかない。オープン・ガーデンの最盛期は5・6・7月なのだ。
やはり、イングリッシュガーデンの旬はこの期間だろう。しかし、旬を外れた時期のイングリッシュガーデンの視察も
この旅の目的の一つだから、Northamptonshireの1件は、7つのガーデンが合同で一斉に公開されると知って、迷わず決定した。
それが"Spratton Gardens"だ。Sprattonは地図で調べると小さな村だ。そこに7つのガーデンがNGSに登録されているということは、
紛れもなく美しい村に違いないとの確信のもと遣ってきた。(イエローブックのディテールは右の通りだ。
この短い文章の行間を読み、臭いを嗅ぎ取るのも楽しい作業だ。)
A5199から一歩入ると、静かな佇まいの家々が並ぶ。High Streetといっても店があるわけでもなく、
こぎれいな民家が並ぶ。フロントガーデンが美しい家だと思ったら、"ngs"の黄色い小さな標識があった。
この家に入ろうとする黄色い案内図を持った人に聞くと、突き当りを右に行ったところにパーキングがあり、
その奥が受付だという。村のコミュニティーホールらしき大きなパーキングに車を止める。
The Stables
黄色の標識に導かれ着いたのが"The Stables"だ。一人4ポンド(7軒まとめて)の入場料を払い、ステッカーと案内図を貰う。
玄関前のアプローチの左右は緑の芝と古びた石やレンガを組んだ塀がマッチし、安らぎを覚える。(写真上左2枚)
玄関の左手を回りこむとろロックガーデンがあり、その上にボーダーガーデンが伸びている。ボーダーは後にして、
家の裏に回ると、ロックガーデン風の水の流れが池に注ぐ爽やかな光景だ。その先には緑豊かな農地が広がる。(写真上右)
更に時計回りに回っていくと、パーゴラが現れる。絡まっているのはクレマチスかハニーサックルか。背の高い樹木、
とりどりの色合いの潅木に奥行きを感じる。植え込みの宿根やシュラブも厚みがある。
The Stablesというから元はもっと素朴な馬小屋風だったのかもしれない。今は小ぢんまりしたモダンな家だ。
家を一回りしてボーダーに上がる。手入れの行き届いた芝のカーペットは気持ちが良い。まだ花はほとんど無いのだが、
この彩の美しいこと、色彩計画(Colour Scheme)のなせる業だ。NGSのこのくらいのスケールの庭がとても参考になる。
Flower in Open Gardens
次を紹介する前に、今回のオープンガーデンで見た美しい花を紹介しよう。
クレマチスは早咲きのモンタナ系だろうか。八重のスイセンが鮮やかだ。足元で伸び始めたのは何だろう。
中央もクレマチスだ。チューリップもこんなコンテナに植えられたら幸せだろう。
セダムもこれだけ大きなコンテナに寄せ植えされると見事だ。
クレマチスとビオラの植え込みはこれからが見頃だ。この季節この彩が出せるとは、驚きだ。(左から2枚目) 中央はチューリップの競演。背丈のあるフリチラリア(右から2枚目)やユーホルビア(右)も 陽だまりに上手に取り入れたいと思う。
Maltham Cottage & 11 High Street
2軒目の"Maltham Cottage"は小さなガーデンだ。ユニークなガーデンオーナメントを後で紹介しよう。
3軒目は"11 High Street"だ。ハイストリートから美しいフロントガーデンが見られる。それだけでもありがたいのに、
今日は中に入れるのだ。
ここはウナギの寝床のように奥行きのある敷地を上手く利用している。家の横を通り過ぎるとバックヤードに出る。
バックヤードに面した部屋はキッチンとリビングのようだ(写真右)。キッチンの窓からは手に取るように近くに花が咲いている
(右から2枚目)。リビングから直ぐにガーデンへ出られる。イギリスの家庭のガーデンはもう一つに部屋のような存在なのだ。
家族が生活し楽しむ場なのだ。だから、普段は他人が入ることは出来ないのだ。バックヤードについては
”コラム 英国ガーデンは楽しい”に記した。
奥へ続くなだらかな傾斜地に段差をつけ小さなガーデンが連なる。面白い形のガーデンだ。
Garden Furniture & Ornament
今度はこの日のオープンガーデンで見たガーデンファーニチャーやオーナメントをお見せしよう。
イングリッシュガーデンでは外せないアイテムだ。実にバラエティーに富んでいる。
下の4点はいずれも最後に紹介する"Spratton Grange Farm"のものだ。
樹木の根元にこんなに可愛いフェアリーの像が置かれている。妻が「どこに行ったら買えるのかしら。」とソワソワしだした。
池のほとりにはつがいの鶴のオーナメントが見られる。立派な噴水も置かれている。門扉も何と優雅なフォルムだろう。
左2つは2軒目の"Maltham Cottage"のものだ。ミニウォーターガーデンといった趣のコーナーの樽とポンプ、如雨露、
そして、水の吹き出し口と水辺で遊ぶ蛙、楽しい光景だ。池のほとりには水生植物の中に鶴のオーナメントだ。
中央は"11 High Street"のものだ。二つのオーナメントがミスマッチに見えるが、狭いガーデンの泣き所だろう。
右から2枚目は"Mulberry Cotage"の像だ。斬新な現代アートがガーデンの片隅で目を惹く。
右の古典的な像は上の4つと同じ"Spratton Grange Farm"のものだ。
Mulberry Cottage
4軒目が"Mulberry Cottage"だ。左がコテージの名前になっている"Mulberry Tree"だろう。桑の木と言うが、
こんな大きな桑の木は初めてだ。正にシンボル・ツリーだ。
入り口右手の土手にチューリップやプリムラ、パンジー、スイセンなどいったい何種類の花が咲いているのだろうか、
苗の販売もしているくらいだから、自家育苗だろう。花はなくとも、この葉色と葉形の妙に唸らされる。
自宅前のテラスはしっかり花で囲まれている。パンジーの花の大きいこと。
Flower in the street
NGS以外のお宅でもフロントガーデンの美しい家が沢山ある。街角でこんな光景が見られるのは幸せだ。
コンクリート・フェンスを彩る懸崖の花の名前は不明だ。
しっかりカットされた芝からどうしてこんなに綺麗な花が出揃うのか、ため息の出る光景だ。ここを動きたくない。
写真中央もこんな景色の中に住みたいと思う。どうしてこんなお洒落な道になったんだろう。
壁を伝うのは、手前の方が藤で奥の方がバラだろう。これが咲いたらどんなだろうか、またその時期に来て見たいものだ。
道路端にこんな大きなユーフォルビアが何事もないように咲いている。高台の教会もスイセンのハナに囲まれている。
The Granary & Northbank House
5軒目は"The Granary"は美しい花と街角で紹介した背の高いユーフォルビアが沢山咲いているガーデンだ。
6軒目は"Northbank House"でこれが圧巻、花で溢れている。家の東側に緩やかなアンジュレーションのある
ガーデンが広がる。古びた石やレンガで段差を付け区切られ、変化と展開が演出されている。
植栽の豊かさと芝の青さに焦燥感を感じる。どう真似ればこんなガーデンに近づくことが出来るのだろう?
決して気候風土だけの所為にはしまいと、観察する。
Sundial in Open Gardens
次はこのオープンガーデンで見た日時計の数々だ。陽だまりにも日時計を置こうと、ガーデンセンターなどで探し求めているのだが、
なかなか見つからない。こんなに色々な形のものがあるのだから、何時かはきっと見つかるだろう。
左から3軒目、5軒目、6軒目のガーデンのものだ。6軒目の花の美しさは何としたことか。右2つはこの後の7軒目のものだ。
Spratton Grange Farm
さて、7軒目は同じ村の中でも少し離れていて、車で移動しなければならないようだ。プライベートガーデンを6つも
見せていただいて大満足したから、これで帰ろうかとも思ったが、折角だからと訪ねることにする。
村の集落とはA5199を挟んで反対側だ。ファームの標識が出てからもかなり走らされる、広大なファームだ。
"Spratton Grange Farm"と地図に出ている。
大勢のスタッフが好奇の目で迎えてくれる。胸に張ったngsのステッカーを見せると、ご主人らしき方が、
歓迎の言葉と道案内をしてくれる。フォーマルガーデン(写真左)の入り口で「家の回りをぐるっと回ってください。」
とのことだ。
なんとも手入れの行き届いたガーデンだ。高木、潅木、宿根草、球根、一年草がバランスよく配置されている。
そして、ファーニチャーやコンテナの類も豊富に置かれている。その癖、決していやみにならない。
フォーマルガーデンの先は広大な芝の広場が広がり、一番低いところにポンドがある。その先はどこまでも農地だ。
立派な邸宅の回りも斜面を活用したロックガーデン風の美しい庭だ。ため息ものだ。家の壁沿いの植え込みも無力感を覚えるほど
美しく整っている。
屋敷の前の牧場には馬が数頭放たれ、向こうには羊の姿も見える。テラスにはライトアップ用の照明も見える。
満開の桜がチラホラと花びらを散らせている。ここに来て花見が楽しめようとは思いもしなかった。
右から2枚目の写真の奥に見えるガゼボからの光景が右の写真だ。中のベンチに座っていると眠くなってきた。
こんなシチュエーションでまどろめたら至上の幸せと言うものだが、旅の身には許されない。
さすがにGrangeを名乗るだけのことはあるが、ガーデンはお金があれば出来るというものではない。
肝心なことはオーナーの花心であろう。ここだけでなく、7つのガーデンのオーナーに敬意と感謝を捧げSprattonを後にする。
Address | Spratton, Northamptonshire, NN6 8RQ |
Telephone | - |
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Web Site | National Garden Scheme |
オープンの日・時間や入場料は Web Site あるいは
Gardens Finder
Gardens Guideで確認ください。
「旅行記」もご覧ください。