Pitmedden Garden ピットメデン ガーデン
私の旅の計画作りは、得られた情報をガーデンは緑、城や教会はオレンジ、その他は赤などの付箋紙を地図に貼り、その数や分布を見て、どの辺りに何泊するかを振り分ける。
一方その情報は訪問予定先リストにし、住所、オープンの曜日・時間、料金などと共に優先順を◎、○、△の3段階で付けるのだが、中には3重丸や花丸を付けたい施設もある。
その上で取捨選択し、いつどの施設を訪れるかの日程表に仕上げて行く。今年は最終的に200に近い施設が日程表に上がっている。
その花丸中の花丸がピットメデンだ。オリジナルはピットメデンの初代准男爵Sir Alexander Setonが1675年に築いたが、19世紀初頭の火災で破壊してしまった。
1950年代にナショナル・トラスト(The National Trust for Scotland NTS)の所有となり、
17世紀のオリジナルのガーデンを再現しようとしたが、設計図などはその火災で焼失してしまい、発掘調査でも手掛かりはつかめず、
エジンバラのホリールード宮殿の17世紀のガーデンのデザインで復元したものだ。インターネットなどの写真を見て必見としてきたのだ。
受付を済ませ、ショップを通り抜けてガーデンに入ると2匹のうさぎの像が目に付く。戯れているように見えるが、"Boxing Hares"というから戦っているのだろう。
何を意味するのかは不明だ。ハウスの壁をクライミングするバラやハニーサックル、ジャスミンの香りがフラワー・ガーデンへの期待を高める。
シンプルなパーテア(parterre 刺繍模様花壇)がある。刈り込まれた柘植で描かれた幾何学模様の中は彩色された砂利だ。これは16世紀のデザインに近い。
素朴なサンダイアルやリンゴの木のアーチに導かれた先はファームハウスだ。農機具が表に出ている。「随分旧式な機械を使っているな」と思ったら、
ここは"Museum of Farming Life"だったのだ。19世紀の農業や農民の生活ぶりが人形などを使って面白く展示してある。
この地域で使われていた農機具であり、動力は馬が使われていた時代のものだ。
19世紀のイギリスの農業の仕組みは、広大な土地を持つジェントルマン(貴族など)が農地を幾つかの農場(Farm)に分割し農場経営者(Farmer)に貸与し、
ファーマーは農業労働者を雇い過酷な労働を課したのだ。ジェントルマンはカントリーハウスやマナーハウスに、ファーマーはファームハウスに、
農業労働者はコテージに住み、その3つは互いに隔離されていたのだ。全てはジェントルマンの所有であり、ファーマーも農業労働者も借家住まいであり、
働けなければ住む所もなくなる不安定な身分だったのだ。
それにしても、ここまでの所は入手した情報とかけ離れている。少し失望しながら、ライムのトンネル(Double rows of limes 写真上右)を歩いて行くと、
突然視界が開いた。
高い壁に囲まれ、サンクン式に1段下がった広大なガーデンが出現した。今までの部分はハウスと同じレベルの"Upper Garden"で出現したのが"Lower Garden"
あるいは"Great Garden"と呼ばれるお目当てのガーデンなのだ。見下ろせば見事に刈り込まれた大きな4つのパーテアが整然と構えている。
はやる気持ちを抑え、先ずは上の段のボーダーを一回りだ。高い花崗岩の壁にはリンゴなどの80種の果樹が見事に這わせてある。
その前面はルピナスのボーダーだ。まだ新しいようで隙間は見えるが、羨望ものだ。一方のサンクンの手摺りの壁には、
信じられないほど大きな鯛釣り草やアルケミラモリスなどの宿根草が繁っている。
いよいよ待望の"Great Garden"へ下りるのだが、4つのパーテアの内、3つがホリールード宮殿のデザインで、南東に位置する1つは初代准男爵
Sir Alexander Setonを称えて、NTSが17世紀の様式に従いデザインしたセトン・パーテア(Seton Parterre)だ。真ん中に”Alexander家の紋章”と
オリジナルのガーデンが始まった”1675”の数字、スコットランドの国花の”あざみ”、スコットランドの国旗”セントアンドリュース・クロス”などがデザインされている。
写真下は左から上の段から見下ろしたセトン・パーテア(手前の花はあざみ)、次があざみのパーテア、そして、セントアンドリュース・クロスのパーテアだ。
今は色味がないが、シーズンになれば刈り込みの間には花が咲き乱れるのだ。その数、実に40,000株とのことだ。
南西の位置には、ライオン・パーテア(Lion Parterre)だ(写真下左2枚)。中心にライオン像が立つ。見事な曲線でパターンが描かれている。造形美の極致だ。
ピットメデンの6つのパーテアの柘植のヘッジの総延長は、5マイル(約8km)とも6マイル(約10km)とも言われている。
北西の位置には、テンプス・フジット・パーテア(Tempus Fugit Parterre)だ。ラテン語でTempusは時間、Fugitは飛ぶを意味する。
日本語で言えば”光陰矢のごとし”というところだ。確かに中央にはサンダイアルが鎮座している(写真下右2枚、3つ下右)。
パーテアの周囲の壁に沿う草本ボーダー(herbaceous borders 写真下左)の植栽、カラースキムに唸る。花は一つもないが、その高低、葉色、葉形、質感だけでここまで美しい。
花が咲いたらどうなるのか、想像するだけで眼が眩みそうだ。ここも満開の季節に訪れたいリストに上げておこう。
ここのThe National Trust for Scotlandのチャリティー・オープンは8月下旬のようだ。その時期が狙い目だろう。
北東の位置には、デイジー・パーテア(Daisy Parterre)だ。名前の通りデージーのデザインだ。この日はNTSの職員がパーテアの中にベゴニアを植え込む作業をしていた。
道糸でラインを引き丁寧に植え込んでいる。この地道な作業が大切なのだと意を強くする。
NTSのガイドツアーに出会う。大勢の人が熱心に聞き入る姿は”庭師の国”というフレーズを納得させる。質問も沢山出てちっとも前に進まない。
シャッターチャンスがなかなか訪れない。このパーテアはアップガーデンのもう一つのもので、前述した彩色した砂利を入れたパーテアと同じデザインで、
こちらは間にラベンダーなどのハーブ類を植栽している。彩色した砂利のものより少し進んだ形だ。
オーナメントも重厚な雰囲気でガーデンの品格を高める。ハウスから"Great Garden"を貫く軸線は両脇をトピアリーに挟まれた芝生のロングウォークだ。 そこのオーナメントは写真下左から、"Upper Garden"の噴水、"Upper Garden"と"Great Garden"の段差の階段、"Great Garden"の噴水、 テンプス・フジット・パーテアのサンダイアルだ。階段の上から見下ろす4つのパーテアの光景は筆舌に尽くし難い。
Address | Ellon, Aberdeenshire, Scotland, AB41 7PD |
Telephone | 08444 932177 |
Web Site | Pitmedden Garden |
オープンの日・時間や入場料は Web Site あるいは
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