4. 英国ガーデンのスタイルと変遷 水色枠の写真はクリックすると拡大写真になります。
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イングリッシュ・ガーデンというと、どんな庭をイメージされるだろうか。
ピクチャレスクなランドスケープ・ガーデン、それともコテージ(田舎家)を囲むフラワー・ガーデンだろうか。
他にも色々イメージされることだろう。そのどれもが正解なのだ。
英国ガーデンは500年の歴史の中で変遷を重ね、様々なスタイルのガーデンを包容してきたからだ。
その変遷を振り返ってみよう。
15世紀まではハーブ園、菜園や果樹園といった素朴なガーデンであったようだ。
元来、英国は緯度が高く、氷河に覆われた時代があることと土質が石灰岩からなることで植物の種類は格段に少ない国なのだ。
16世紀になるとノット・ガーデンが登場する。ノットとは綱の結び目模様を表す。
柘植など常緑低木で結び目をデザインし、間に彩色した砕石などを敷き詰めたものだ。
これが後にイタリアやフランスに渡り、草花を取り入れたものに発展して行く。
17世紀になると逆にイタリアやフランスのフォーマル・ガーデン(整形式庭園)が取り入れられる。
幾何学的、直線的な自然を制圧する庭は、力を示すものとして王族・貴族に好まれた。
また、この時期にはオランダの柘植やイチイを装飾的に刈り込むトピアリーも盛んに取り入れられる。
Sudeley Castle & Garden 2002 美しく刈り込まれたノット・ガーデン 繊細で複雑な曲線は流れるようだ |
Dunrobin Castle 2005 フランス式フォーマル・ガーデン 高低差があるため全体像が良く見える |
Levens Hall 2001 2005 愉快なトピアリーガーデン 310年の歴史がなせる業だ |
18世紀になると人工的幾何学的花壇に対する批判がでてくる。
一方この頃、貴族の子弟は家庭教育が終わるとグランド・ツアーという大陸周遊の旅をする慣わしがあり、
お土産としてイタリアの風景画を持ち帰った。
平地の多い英国人は起伏のあるイタリア風景画に憧れこれを自分の庭に再現したいと願った。
こうして生まれてきたのがランドスケープ・ガーデン(英国式風景庭園)だ。
湖や川や橋、廃墟や洞窟、神殿や寺院などを自然らしく造成したガーデンだ。
このガーデンを非整形式庭園ともいう。
Studley Royal Water Garden 2005 Fountains Abbeyの廃墟を取り込む 世界遺産に登録されている |
Stourhead 2004 湖に架かるアーチ型石橋 満開の石楠花の花色の豊富さに驚く |
Sheffield Park 2002 シーズンごとに異なる表情を見せる樹木 世界中から収集され計算して植栽される |
19世紀はプラント・ハンター(植物探検採集家)が活躍する。王族や貴族などの命を受け、
広がる植民地の隅々や未開の地から珍しい植物を採集したのだ。
これにより英国の植物の数は爆発的に増えたのだ。
一方、産業革命を経て裕福となった階層が郊外に邸宅を構え、豊富になった花を取り入れた花壇やテラスを造り、
幾何学的な庭も復活する。ピクチャレスクに対しガードネスクといわれる。庭らしい庭ということだ。
20世紀になると華やかな庭に対する反省が出始め、
野生の草花や素朴な田舎家を取り入れたコテージ・ガーデンが生まれてきた。
隣り合う花の色彩の組み合わせを考慮するカラー・スキム(色彩計画)や
庭を幾つもの部屋に区分するアウトドア・ルーム・ガーデンなど英国独特のガーデンが登場する。
このような変遷を経てきた英国ガーデンは一つのスタイルだけでなく、
様々なスタイルを兼備しているガーデンが多い。それゆえに見応えがあり、楽しいのだ。
Powis Castle 2006 4段のテラスのあるイタリアン・ガーデン テラスの花壇は色とりどり 華やかだ |
Mellerstain House 2005 静かな佇まいのOld Thatched Cottage 夏なのに涼やかな雰囲気だ |
Sissinghurst Castle Garden 2002 アウトドア・ルーム・ガーデン 幾つもに区切られた趣の異なるガーデン |
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